『春 変奏曲』 宮澤 賢治 より

『春』 変奏曲       宮澤 賢治              1924.8.22        1933.7.5 いろいろな花の爵やカップ、 それが厳めしい蓋を開けて、 青や黄いろの花粉を噴くと、 そのあるものは 片っぱしから沼に落ちて 渦になったり条になったり ぎらぎら緑の葉をつき出した水ぎぼうしの株を あっちへこっちへ避けてしづかに滑ってゐる ところがプラットフォームにならんだむすめ そのうちひとりがいつまでたっても笑ひをやめず みんなが肩やせなかを叩き いろいろしてももうどうしても笑ひやめず(ギルダちゃんたらいつまでそんなに笑ふのよ)(あたし・・・やめようとおも・・・ふんだけれど・・・)(水を呑んだらいゝんぢゃあないの)(誰かせなかをたゝくといゝわ)(さっきのドラゴが何か悪気を吐いたのよ)(眼がさきにをかしいの お口がさきにをかしいの?)(そんなこときいたってしかたないわ)(のどが・・・とっても・・・くすぐったい・・の・・・)(まあ大へんだわ あら楽長さんがやってきた)(みんなこっちへかたまって、何かしたかい)(ギルダちゃんとてもわらってひどいのよ)(星葉木の胞子だらう  のどをああんとしてごらん こっちの方のお日さまへ向いて さうさう おゝ桃いろのいゝのどだ やっぱりさうだ 星・・・葉木の胞子だな つまり何だよ 星葉木の胞子にね 四本の紐があるんだな そいつが息の出入のたんび 湿気の加減がかはるんで、 のどでのびたり、 くるっと巻いたりするんだな 誰かはんけちを、水でしぼってもっといで あっあっ沼の水ではだめだ、 あすこでことこと云ってゐる タンクの脚でしぼっておいで ぜんたい星葉木なんか もう絶滅してゐる筈なんだが どこにいったいあるんだらう なんでも風の上だから あっちの方にはちがひないが)  そっちの方には星葉木のかたちもなくて、  手近に五本巨きなドロが  かゞやかに日を分劃し  わづかに風にゆれながら  枝いっぱいに硫黄の粒を噴いてゐます(先生、はんけち)(ご苦労、ご苦労 ではこれを口へあてて しづかに四五へん息をして さうさう えへんとひとつしてごらん もひとつえへん さう、どうだい)(あゝ助かった 先生どうもありがたう)(ギルダちゃん おめでたう)(ギルダちゃん おめでたう)  ベーリング行XZ号の列車は  いま媒体の白金を噴いて、  線路に沿った黄いろな草地のカーペットを  ぶすぶす黒く焼き込みながら  梃々として走って来ます サイロメレーン  サファイア アクアマリン エメラルド   
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